アートでメシが食える世の中を作るために「伝える役割」になる。

011 / 似顔絵師 野中迪宏
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似顔絵ヒーローのエガオーについてもっと詳しく聞いていきます!ストーリーやコダワリを聞き出すと終わらない話がはじまってしまいました。

エガオーのコスチューム

エガオー、似顔絵を描くヒーロー2

ちなみに、なんでエガオーなんですか?

最初はニガオーだったんです。でも、なにかでもう使われてたんです。それで、電王みたいに、絵画王(エガオウ)がいいんじゃないって思ったんです。「笑顔を」という風にも取れるので、いろんな意味が入るように「エガオー」というカタカタにしたんです。

へえ。いい名前ですね。イバライガーを経験して、すぐにエガオーは誕生したんですか?

半年ぐらい模索してましたね。いざ変身してみると、間接の可動範囲が狭くて、絵が描けなかったんです…。

そうか。アクションをするヒーローと、絵を描くヒーローでは考慮することが違ったんですね。エガオーは絵を描かないといけないですもんね。

そうなんです。ヒーロー用の厚手のグローブが売ってるんですが、ペンを持って絵を描くのが難しいんです。今は慣れたので描けると思うんですが、当時は全然描けなくて、絵が描けるグローブを探したんです。

カッコ良くても似顔絵を描けないとダメですもんね。

はい。ホームセンターで試着して、手がちゃんと隠れるグローブを探しました。僕はコスプレと思われたくないので、人間らしさは絶対見せたくないんです。

ホームセンターでヒーローのグローブが売ってるんですか?

作業用の柔らかいグローブは売ってるので、それを補強していくんです。

なるほど。スーツはどうやって作るんですか。

全身タイツのモジモジくんみたいな状態に、パーツを付けていくんです。通気性がよくないと夏はしんどいし、軽くないと長時間変身できないので、できるだけ軽いものを探しました。ヒーローショーは2時間ぐらいですが、似顔絵の現場はその倍以上なので長いんですよ。

なるほど。奥深いですね(笑)。

時間の変身を想定し、研究や実験をしながら今のカタチがあるんです。今のが4.0なんです。

すごい。バージョンアップしてるんですね。マイナーバージョンアップは結構あるんですか?

結構ありますよ。最初は自分が描いてる絵の色が分からなかったんです。だからといって見やすいクリアの目にすると、外から見た時に、中に人がいることがわかってしまうじゃないですか。人の存在を感じたら、その時点でコスプレに成り下がります。ミッキーマウスに中の人を感じるぐらいダメなことだと思うんです。

めちゃくちゃ本気ですね(笑)。最初からそういうスタンスなんですか。

はい。中途半端なものを作るんだったら、やらないほうがいいと思ってます。 オモシロイ兄ちゃんが似顔絵をやってるんじゃなくて、ヒーローが似顔絵を描いてるんです。そこにはすごいコダわってます。ある意味、命がけでやってます(笑)。

徹底してますね。描いてるときはヒーローの動きになってますもんね。

ありがとうございます。中途半端なことをやると、逆になめられると思うんです。

エガオーのデザイン

エガオーのデザインも試行錯誤があったんですか?

そうですね。いろいろ悩みました。最初はゆるキャラにしようか悩んだんです。でも、カワイイゆるキャラだと、人のココロにクサビを打ち込むことはできないでしょ。 子供が泣くぐらいインパクトがあって、描き終わったら笑ってくれるぐらいの感情のブレが欲しかったんです。それで、シャープなデザインのほうがいいと思って今のデザインになったんです。

なるほど。

似顔絵のヒーローなので、最初は頭をペンのカタチにしようとか思いました。あと、ガンホルダー型のペンホルダーとかいろいろ考えたんですが、その後の広がりがなくなってしまうんじゃないかと思って止めました。

どういうことですか?

キャラクターを立てると、違うジャンルとのコラボが可能なんです。たとえば、似顔絵とバイクがコラボするのは難しいですが、キャラクターを通せば簡単にコラボ可能なんです。バイクにまたがるだけでしょ。

ああ、なるほど。ペンとか限定的なイメージをキャラクターが持ちすぎるとコラボしにくくなる可能性があるから、シンプルなカタチにしたんですね。じゃ、バージョン1から4へは見た目は変わってないんですね。

そうですね。外側は変わっていないです。曇りにくい素材にしたり、長時間変身しても負荷にならないように内部の工夫はしてます。たとえば、頷いたときに、顔が動かないと不自然なので、頭にはしっかり固定するように改良したりね。

聞けば聞くほど深いですねえ。造形だけじゃなく、設定も考えるんですよね?

はい。命を吹き込まないといけないですから。

コダワリがすごいな(笑)。エガオーは何年ですか?

3年目です。

コツコツバージョンアップされているわけですね。うーん、すごい。

エガオーピンク

エガオーピンク

エガオーが活動してからエガオーピンクが生まれたんですよね。あの人はものすごいエガオーさんのファンですよね(笑)。

朝村由希さんがエガオーピンクをやってくれてるんです。彼女はもともとエガオーのファンで、前から「私はピンクになる!」って冗談で話してたので、去年の竜王賞が終わったあとに、本当になってみますか?って聞いたんです。でも、僕は中途半端な気持ちでやってるわけじゃないので、ちゃんと説明したんです。そしたら、やりますって言ってくれて。

熱い説明をしてる様子が目に浮かびます(笑)。

彼女はもちろん変身したことなかったんですが、某会社のアクターの方に教えてもらいながら、鏡のある部屋で1ヶ月特訓してくれたんですよ。

わはははは。すごいですね(笑)。設定はエガオーの母みたいですけど、2人で考えたんですか?

そうです。秘書とか妹、愛人とかいろいろ考えたんですが、母になってもオモシロイかと思って、母にしたんです(笑)。

エガオーピンクの似顔絵はクオリティが高いですね。

もともと、朝村由希さんは、関西の人気似顔絵師の方で、竜王賞でも実績のあるとんでもない実力者の方なんです。

なるほど。コスチュームは野中さんが作ったんですか。

はい。視界をより広くするために、ピンクの目は大きくしたり、試行錯誤しました。内側の構造の話なんですが、エガオーの目はメッシュなんです。でも、ピンクの目は大きいのでメッシュだと中の顔がうっすら見えてしまう危険があるので、ポリカーボネートのミラーを張ってるんです。

ポリカーボネートでいいじゃないですか。

でも、そうすると色が分からなくなるんです。だから、コピックの色番号でカラーを判別してるんです。

えっ、視界から赤とか黄色は判別できないんですか?

そうです。僕も最初は、肌色と黄色が分からなくて、マスクの目の内側の形状や素材を改良しました。前回の竜王賞で、エガオーピンクは後半のほうはホッペをピンクで塗ってるつもりで、茶色で塗ってた、ってボヤいてました(笑)。

わははは。そんな苦労は誰も分からないですよね(笑)。

分からないでしょうね。もし、コスプレでいいなら、描きやすい格好にしたらいいんですが、そこはこだわってるので。

子供の反応はどうなんですか?

子供は集まってきます。ただ、泣く子も多いんです。エガオーは縦のラインが多いので、印象が怖いんでしょうね。 印象的だったのが、泣いてた子が2年目にまた来てくれて、今度はすごい話しかけてくれたんです。ちゃんと覚えてくれてて、泣かずに話しかけてくるのはオモシロイです。

エガオーの役割

エガオーとシゴトカンは「伝える」という目的では同じですが、違う部分があって、エガオーはキャッチになりますが、似顔絵の真意を伝えることはできないですね。

そうですね。変身してるとうまく描けないんですよ(笑)。

やっぱり絵のクオリティは下がってしまうんですか?

そうなんです。手の自由がないし、視界がはっきり見えないので(笑)。

わははは。そうなんですね。

でも、僕の絵が気に入らなくても、別の人に描いてもらうキッカケになると思うんです。まず興味を持ってもらうことがボクの大命題なんです。子供が興味を持って、家族が来て、一回描いてみよう。ってなればいいんです。初めて描くという体験者が増えることが大切だと思ってます。 0から1にするのは大変なんです。

そうですね。何事もそうですね。

奥深さは他の人から感じてもらったらいいと思っています。

そこは自分の役割じゃないという感じなんですか?

変身してると難しいと思ってます。ただ、野中迪宏としてはできるかもしれないので、その方法は模索してるんです。

なるほど。ちなみに、外で描くときはいつもエガオーなんですか?

いや、そうでもないです。僕自身は変身しないほうが描きやすいですから(笑)。でも、自分が変身したほうが全体が盛り上がるなら迷わず変身します。伝える力が発揮できるときですね。 イベントが盛り上がらないと誰も得しないので(笑)。

すごい。一貫してる。似顔絵師で伝えることに重きをおいてる人っているんですか?

どうなんだろう。ボクの周りは作品のクオリティにこだわってる人が多いですね。

まあ、それが普通ですよね。

ボク自身はまず全体がもっと評価されるようにしたいんです。深い世界なので、ナメられるのが許せないんです(笑)。ボクは似顔絵が持ってる力ってすごいと思ってますから。

エガオーのストーリー

なんかすごくしっかり考えてますよね。エガオーはストーリーとしては出来上がってるんですか?

1人で運営していくことを考えて、ボク自身が変身する設定なんです。

なるほど。エガオーのミッションは似顔絵業界を盛り上げることなんですか?

そうですね。あと、他の似顔絵師に興味を持ってもらいたいんです。

なるほどなるほど。

エガオーのストーリーとしては、絵空事を叶えていくヒーローとして活躍したいですね。例えば、枯れた花を見て、咲いている状態の花を想像でスケッチすると、次のシーンでは枯れてたはずの花が、復活していたみたいな。そういう絵の力を表現したいんです。

いいですね。

今後は、キャラを増やすかどうかも考えてます。ただ、細かい部分は明確に決めれてないっていうのがありますね。主人公が僕なので、今は成長すれば失敗もするし、愚痴るときもありますから。

それでいいじゃないですか。よくも悪くも自然体で、人間臭いエガオーで。もし、バージョンアップしたら、ビジュアルも変わるかもしれないけど。

確かにそうですね。

このエガオーのストーリを映像にしたら面白いと思うんですが、そういうのは興味ないんですか?

興味はありますが、敵キャラも作るとなると、資金もかかりますし…。エガオーを作ったときも、半年がかりなので、軽く鬱になりながらやってましたので(笑)。

わはは。コスチューム作ると大変ですけど、アニメーションでも面白いと思いますよ。 ボクも仮面ライダーを作りたいと思ってシナリオを考えてたことがあるんです。そのときは、まず音声でやろうと思ってました。…ダメだ、この話は終わりがなさそうだから止めときましょう(笑)。

アートで食える会社を作る

ええと、会社を作ったのは去年でしたっけ?勤めた経験がなかったんだから、大変だったんじゃないですか?

卒業以来、大変な経験はたくさんしました(笑)。でも、ナルシストなところがあって、苦労してる自分がカッコ良く見えるときもあるんです(笑)。

わははは。そういう自分が好き、みたいな(笑)。

去年会社にしましたが、3月4日に申請して3月11日に認可…という流れだったのですが、ご存知の通り震災です(笑)。

えっ、すごいときに設立してしまいましたね…。

それまであった仕事が一気に無くなってスタートしたんです。ゴールデンウィークまで仕事はゼロだったので、逆に怖いものはなくなりましたね(笑)。

仕事どころじゃない状態でしたからね。

今はもう大丈夫ですけどね。

会社の仕事の中の、似顔絵のウエイトはどれぐらいなんですか?

8割ぐらいですね。基本的にイベントがメインです。 契約してる結婚式場さんがあるんです。イベントの場合は、お客さまの利益が出ることを意識してます。利益がでないと、次も呼んでもらえないと思うので。 これって商売の基本だと思いますが、絵を描いて売ることしかしてなかったら、気づかなかったかもしれません。

なるほど。

似顔絵に対しても、エンターテイメントでお金をいただいていると考えているので、僕にとって作品は副産物なんです。

席描きってそうですよね。場のサービスに値段がついてると思います。ということは、ネットでの依頼受付はしないんですか?

あまりしないですね。会社としてはよくないのかもしれないんですが…。

ポリシーが明確でいいと思いますよ。じゃ、これからは、アートでメシを食っていく会社を大きくしていくわけですね。

そうですね。そういう意味で、Kageさんはすごいと思います。あの人がアイコンになって、カリカチュアを学びたい人が集まって、食べていってるわけですから。 「絵で食べれる社会を作る」って言ってたので、その考えはすごく共感できます。

なるほど。

企業としてしっかりしていきたいというのは経営者としてあるんです。アートでメシを食っていく会社がコンセプトなので、自分1人だけ食ってても意味がないので、来年は新卒を入れようと思っています。大学で絵を教えてもらったけど、食べていけませんっていうのが減らしたいです。

成功事例になるってことですよね。何かと志が高い(笑)。

会社なので、売り上げを意識しないといけないし、最初にやってもらう作業は似顔絵がメインになると思うんですが、それでメシを食べながら、自己表現を生活の糧にするカタチを考えていけると思うんです。

新卒に自分のルーチンを渡すだけですごい勉強になると思いますよ。

新しい刺激が入って来るので、自分の創作活動にもいい影響があると思うんです。昔の浮世絵って、絵師・彫師・摺師がいて、分業制だったんです。だから、工程が進む過程で、作品がちょっとずつ変化していくんです。それって常に刺激があって、制作意欲が湧いて素晴らしいサイクルだと思うんです。会社の次の段階として、そういう刺激ある体制が作りたいですね。

難しいことだと思いますが、そういう組織ができたら素晴らしいと思います。そういう体制が一番すごいモノができる可能性があると思います。

あと、造形工房が欲しいですねえ。今はコスチュームを作るときにマンションの一室でやってるんです。グラインダーでモノを削ってて、大家さんに怒られたことがあるんです(笑)。

わははは。会社の規模が大きくなったら可能かもしれないですね。いいですね。

まだあまり研究できてないんですが、そしたら似顔絵人形とかも作るかもしれませんね。

そんな会社は楽しそうだ。

まとめ

エガオーに関してはやりたい事が多すぎてどこから手を付けていいかわからなくなってしまっています(笑)

宣伝やアイデアを出すのは得意なので、手伝えることあったらやりますよ。僕はウェブサイト作るのは得意なので、すぐ作れます(笑)。ま、作るだけじゃなくて効果のことをちゃんと考えないと意味ないですけどね。

中谷さんはマッチングが得意なんですか?

そうですね。組織では、それが仕事だったんです。僕は作るのが好きなので、プログラムしたり、インタビューしたり、ウェブサイトを作ったりしますけど、本気でやるときは専門家にやってもらいます。単に自分で一回やってみるっていうスタンスなんです。

まずやってみるって重要ですよね。

ほとんどの人がやらないですから(笑)。 僕は30才のときに聞き上手になるって目標を立てたんです。インタビューは僕に取ってトレーニングでもあるんです。僕は主張が強いので、相手の意見に耳を傾けるトレーニングになると思ってます。

正直なところ、似顔絵楽座の記事を読んで、かなり攻撃的な人だろうと思っていました。でも、ナマクラで切られるより、気持ちいいですね(笑)。そこまではっきり話してくれると、1つの意見として言ってるんだって分かりますし。

そうですか。ありがとうございます。KYって言われることがありますが、なんで空気を読まないとあかんねんって思ってます。自分の意見を述べるのは期待してるからです。似顔絵の価値より市場認知のほうが低いと思ってるから、僕はインタビューをやってますしね。

日本人がディベートが下手なのは問題だと思うんです。発言者が反論できる空気を作って、反対意見に耳を傾ける姿勢がみんなにあれば、もっと建設的な話し合いができると思います。

そうですね。建設的に反論することが普通になって欲しいです。でも、いつかこのインタビューで一発触発の状況が生まれてしまうかも(笑)。

それは読者として楽しみですね(笑)。そのときは、音声ファイルをアップしてください。絶対みんな聞きますよ!

わははは。面白そうですね。

オモシロイっていうのはすごい求心力になりますから。ボクもそこは一緒ですよ。中谷さんとはやってることは違うんですが、考え方がめちゃめちゃ似てますわ。

伝えることをコダわってますからね。これからも、お互い頑張っていきましょう。今日は長い間ありがとうござました。楽しかったです。

こちらこそありがとうございました。僕も楽しかったです。

(2012年5月14日 渋谷のカフェにて)

あとがき

読んでいただくと分かると思いますが、野中さんはめちゃくちゃ熱いオトコでした。普段から考え抜いているから、どんな質問をしても、筋が通った意見がズバッと返ってくる。

将来、弟子にエガオーを伝授できるようになったとき、野中さんは次のステップでどんな活動をするんだろう。興味深い。「アートとビジネスの共存」って大変なテーマだから、大変なこともあると思うけど、これからもチャレンジして欲しい。ボクが協力できることがあればしますよ。ウェブの伝える力はありますのでねw。一緒にビジネスができると面白そうですね。

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