できなくなったことは、やらなくていいこと!次は何が待ってるんだろうって楽しみなの。

018 / 似顔絵師 小河原智子
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これから取り組みたいこと

石原慎太郎

活動領域が変化していってるなかで、これから取り組もうとしてることってあるんですか?

ある。

あるんですね。すごい!

最近すごい考えるの。それで、似顔絵って何?って思ったときに、「似」「顔」「絵」じゃない?

うんうん。

自分は、「似」はテクニックだと思ってて、「顔」はお客様でしょ。それで、「絵」をもっとやっていきたいと思ったんだよね。「絵」って、描きたいって気持ちがあるから描くでしょ。この人が描きたい!っていうのがはっきりあるのが「絵」だと思うの。

なるほど。

「似」って、極端な話、モデルは誰でもよくて、似させるとが目的だと思うの。だから、流行の人のほうがいいだろうし、特徴的な顔だったら描きたくなっちゃう。でも、「絵」っていうのは、この人を見てこう感じたっていう「気持ち」だと思ってるのね。今までは、似せることに夢中になってたと思うの。そのほうがみんなの反応もいいしね。でも、この人を見て驚いたとか、自分の気持ちが動いた人を描きたいって思ったの。

そう思うようになったのは最近なんですか?

潜在的には、たぶん昔からなんだけど、コトバにしたのは最近。

似顔絵で、自分の感情表現だったり、メッセージを発したいってことですか?

そう!

似るだけだとテクニックっていう考え方なんですね?

私はね。いろんな考え方があると思うけど、私としてはそうなの。

テクニックを見せるんじゃなくて、エモーショナルな表現がしたいと。

そう。目に見えては違いはないかもしれないけど、自分の中では全然違うことなの。

うんうん。

私の表現力では伝えられないかもしれない。もしかして、いっぱい描いたら、伝わるかもしれない。まだ分からないけど、やりたいことはそんな感じ。

今回の個展はそういうスタンスなんですか?

そう。たぶん(笑)。

それがこの個展のタイトルの「人の顔はひとつではない Two Faces」なんですか?

人の顔はひとつではない

そう。私が似顔絵を描くときって、このモデルはこう描こうかな、いや、あの顔かな、って悩むときがあったの。でも、今回は描きたいって気持ちを大切にして、両方描いてみようと思ったの。

ということは、これからいろんなものを作っていくわけですね。

そんな気がしてる(笑)。あと、タイトルを付けたのは、もう1つ理由があって、私は、お題がないと見る人が喜んでくれないだろうって気持ちがあるの。

分かりにくいということ?

そう。美術館に行くと、滞留時間が短い絵って見かけません?でも、せっかく描くんだから、長く見て欲しいでしょ。そのためにテーマがあったほうがいいと思ってて、それで、今回もテーマをつけてみたの。

なるほど。

個展をやる意味は大きい

映画雑誌でのイラスト

でもね、こういう考えって、個展をやることになって、いろいろ考えてたから、整理されたんだと思う。今まではぼんやりしてたと思う(笑)。

僕は、今回が初めての個展と聞いてビックリしました。

これを言っちゃうと誤解されそうだけど、個展をやって知り合いだけが来ても意味がないとずっと思ってて、だからやらなかったの。

じゃ、なんで、今回やろうと思ったんですか?

やりませんか?って誘われたから(笑)。

あっ、そうか。自分からじゃないんですね(笑)。

でもね、個展をやるといろいろ考えるから、すごいいいと思った。テーマを決めて似顔絵を描くって、何のために自分が描いてるのか考えるキッカケになる。自分への問いかけみたい。だから、もし友達しか来ないとしても、いや、仮に誰も来なくて、自分しか見ないとしても、やることに意味があるんだなと思うようになった。

なるほど。

それで、いろいろ考えたら、今はいろんな質問にすっきり答えられてる気がする。だからやってよかったと思う。すべてやってみないと分からないでしょ。

僕も似た感覚を持ってて、やってみないと本当に分からないと思ってるんですよ。僕はウェブサイトを作るのは得意だけど、文章を書くのとかインタビューは初めてですよ。でも、やってみていろいろ発見があります。

得意なことを活かしつつ、新しいことをやったら、なにかが生まれるよね。得意なことだけやってても生まれにくいかもしれない。他になにかがね。

マルチだから教えるのが合ってると思う

小沢征爾

私は昔に似顔絵を始めた人なので、似顔絵に関する仕事は全部来ちゃったの。フィギアの三面図だったり、ソフトウェアの開発に呼ばれたり、テレビのワイプとかね。それで、全部やっちゃったので、広く浅いんです。 だから、テレビチャンピオンに出たときも、「マルチな作家」って紹介されるんです。でも、「マルチ」って呼ばれる人のほとんどは、それが、嬉しくもあり、悲しくもあるでしょ。

すごくよく分かります。

でも、それを通り過ぎると、それが自分だなって思うんです。

まったく僕も同じです。僕は自分のことを器用貧乏って思ってて、何でもできるけど、何のスペシャリストでもないことにコンプレックスを持ってたこともあるんですが、今はそれが自分の強みと思ってますね。それが僕なので、徹底的にやると。

そうそう。それでね、そしたらマルチな人って先生に向いてると思ったの。

なるほど。

広く浅く教えられて、いろんな視点があるじゃない。今、先生をやってて、自分にあってるなって思うし、マルチも極めればスタイルになると思う。

先ほど教室を見学させていただきましたが、みんな楽しそうでしたね。

生徒さんには、その人らしく描いて欲しいの。それがステキだと思うから。誰かのスタイルに似てるって言われたら、つまらないと思うから。

お金のこと

ちょっと話が変わるんですが、仕事とお金はどういうバランスで考えているんですか?

経済活動っていう意味では、自分の場合は、あとからついてきたから、お金のことは考えたことはないです。

すごい!そんなセリフはなかなか言えないですよ。

儲かってるって意味じゃないですよ。でも、入ってくる以上に使わなければいいだけだし、貧乏なときもありましたよ。でも、贅沢しなければ生きていけますね。

すごい分かるんですけど、昔ってそういう考え、今よりもっと理解されにくい気がするんです。周りとのギャップってなかったんですか?

美術大学だったんだけど、そういう人ばかり集まっていたのでギャップはなかったです。

人って周りの影響を受けるでしょ。バブル時代って周りは金を使いまくってたわけでしょ。そんな時代に、そんな考え方を持ってたのがすごい。

ケチなんですよ(笑)。

わはは。

だから、事業をどうしても大きくしていかなければならないという発想がないんです。

でも、結果的に大きくなってるんでしょ。

それは秋久という社長がキチンとやってくれたから、大きく育ってきたんだと思います。

職業として成り立たせるには、誠実でキチンとした仕事を積み重ねること

ユージュアル・サスペクツ

業界全体のことって考えます?

そういう感覚はないと思います。目の前のことを一生懸命やってるのが、何かのカタチで役に立ってるかもしれないけど、進むべき方向が見えて進んでるわけじゃないの。

他の業界の人に同じような質問をしたことがあるんです。その方は、前に進むために、目の前に積もった雪をどけてるだけって言ってました。それが、どこに続いてるか分からんって。

そうです。そんな感じです。

そういう考えがコツコツ続けるパワーなのかなあ。コツコツが一番強い。

コツコツは好き。でも、仕事として確立するっていうのは誠実にコツコツとよい仕事をし続けることだと思います。

似顔絵の描き方

キース・ジャレット

ええと、似顔絵の話もしておきましょう(笑)。芸能人と一般の人で描き方を変えてますか?

一般の方はその人が喜ぶよう描くし、芸能人はパブリックイメージを大切にして、みんなが見て楽しめるようにしますね。

はいはいはい。

仕事で描く時の有名人似顔絵は、求められてるものを描くようにしています。新聞なら新聞用。

新聞の似顔絵

タッチはどう使い分けてるんですか?

それは仕事次第。今はイベントはめったいにないので、対面のお客様は、対話の中で、相手が喜ぶように描く。私は、描いてるのを見せながら描くので、相手の反応を見ながら描いていきますね。ラフ出ししまくりな感じです。

コミュニケーションしながらなんですね。画材は?

水彩です。作品の場合は、いろいろですけど。納品する仕事はパソコンで描いてます。

タブレットで?

はい。

昔に始めたときにまだパソコンないでしょ。

ない(笑)。知らないと思うけど、昔はパソコンで線を描いても、すぐに出てこなかったんですよ。

わははは。ウインドウズですか?

マックしか使ったことないの。実は、社長がパソコンが好きで、買ってたんです。でも、全然知らなかったんですが、ある日、値段を聞いてビックリしたんです。

当時は100万とかするんじゃないですか?

そうですね。そんなときに、フロッピーの会社からパソコンで描いてくれませんかって依頼があって、それで使ってみたの。

フォトショップで描いてたんですか?

いえ、Painterだったの。だからずっとPainterなの。

Painter!いまもですか?

うん。あんまり使ってる人いないですよね。でも、バージョンアップしてますよ。フォトショップとかイラストレーターと近くなってきてますね。

当時、Painterの本なんてないでしょ。

吉井さんの本を読んでました。

ああ、吉井宏さん!あの人のキャラクター大好きでした!懐かしい!

私も大好きです。吉井さんは、マックフェアのときに、レセプションでご一緒しました。

そうなんや。僕は大学生のときに吉井さんのサイトをよく見てました。

吉井さんの本は私には使いこなせないことも多かったですが、勉強になりましたね。

僕がすごいなと思うのは、昔と今って絵を描く環境が全然違うじゃないですか。パソコンにシフトしていくときって、みんな試行錯誤でしょ。今はサイトで調べたらすぐ分かるけど。それを手探りで表現の幅を広げて行ったんでしょ。

パソコンの値段が高いの知ったから使わなきゃって思った(笑)。私は、一番最初に使ったものが大好きになるので、マックが大好きなの。可愛くて仕方ない。マックはもしかしたらこうかもって思って触ってたら、なんとなく出来るでしょ。これならやっていけると思ったの。

見た事ないものを作りたい!

ナット・キング・コール

今日、お話を聞いてて、完全なクリエイターやと思いましたね。生み出すことが生き甲斐でしょ?

そう、だって、見た事あるものなんてつまらないでしょ。誰かが見たことないものを作ってくれると、すごい嬉しくて、神様みたいと思っちゃう(笑)。だから、私も見た事ないものを作りたいし、教室で教えてる生徒さんにも作って欲しい。

生徒でも出来る可能性がある?

あります!みなさんそれぞれ私とは違うことを積み重ねてきた方々ですから。新しいスタイルっていうのは、出会うはずのなかったものが出会う時に生まれるの思うの。

化学反応ですね。

そう!

だからバックボーンが違う人との会話が楽しいんですね。僕と全く同じです。今日はお会いするまで、僕と小河原さんに共通点があると思ってなかったんですが、不思議な感じ。

そうですか(笑)。

毎日、新しい表現のトライアンドエラーを続けてるのに、まわりには気づかれないんですか?

私はだいたい新しい技法は夜に思いつくんですが、次の日にやってみたら大したことないの(笑)。それで気づかれないんだと思います。

意図をちゃんと説明してないんでしょ。例えば、さっきの教室でやってたのは偶然性のオモシロさですよね。チェーンを使って横顔を描くと、ペンで描く線と違って、自由なラインにならないから、その偶然性が面白いんですよね。

そうです!!

僕は、イラストレーターのベジェで描くので、線はキレイに描けるんです。でも、たまに、わざとペンツールに変えて、マウスで描くんです。そうすると、意図しないラインがもっと似てることがあって、それと同じだと思いましたよ。

そう。私は偶然性が好きだから、そういうのをどうやったら伝えられるんだろと思って、あっ、チェーンだ!って閃いたの。でも、かすかにこの感覚を分かってくれる生徒がいるのよ。

あ、みんなには伝わらないの?

一度でみんなには伝わらないですね。

先生は何をやってるのかな…?ってなるんだ。わははは。

考え抜けば、答えは現れる

八代亜紀

一番夢中になるのは、普段考えてたことが夜に閃いたとき。夜に思いつくことって本当にすごいと思ってるの。

なんか集中する空間とか作るんですか?

いや、特に何もしない。寝るときにボーッと考えてると、そのときに夢中になってることのアイデアがパッと出るときがあるの。横顔もずっとやりたいって思ってたから。

それで、閃いたのが鎖なんですね。

そう。前々から10人いたら1人ぐらい横顔のほうがいいと思ってて。でも、意外に横顔を教えるノウハウはないんです。

そうなんですね。

小さいときに好きだった話があるんだけど、ミシンが出来たときの話って知ってる?

知らないです…。

あのね、あるお母さんが毎日縫い物をしてたのね。それを見ていた息子が、お母さんに楽をしてもらいたいと思って、動力で自動的に縫えるミシンを考えるんだけど、どうしてもうまくいかないの。裁縫の針っておしりに糸を通すでしょ。 だから、ミシンの針穴もおしりの所と思い込んで考えていたんだけど、どうしてもうまくいかなくて…。それでずっと考えていたら、ある時夢を見たの。

ほお。

未開の地で、槍を投げて、動物を狩猟してる夢を見たの。夢の中では、槍の先に穴が開いていたので、それがヒントになってミシンの針の穴が先端にできたっていう話があるのね。

なるほど!確かに、槍って先端を持ちますもんね。それはすごいエピソードですね。

そうなの。その話を聞いたとき、すごい衝撃をうけたの。だからね、ずっと一生懸命考えてたら、ほっといたら、いつか解決するって思ってるの。

そういう解釈ですか(笑)。普通そういうエピソードから学ぶのは、「常識を疑え」とかでしょ。ほっといたら解決するって言うのはすごい楽観主義ですよ(笑)。

でも、その前によーく考えるのよ。それが大事。それでも、解決策が出てこないとしたら、本気で考えてなかっただけと思ってるの。だから、よく考えるの。

なるほど。そういうことか。

創作活動と仕事はまったく別のモノ

そういうことも授業で伝えるんですか?

みんなが描いてるときに、好き勝手しゃべってるから言ってるかも(笑)。みんなが描いてるときにいろいろ言うんです。絶対にオリジナルじゃないと意味がないとか。ウマい人はいっぱいいるとか、うまいだけの人にならないようにとかね。

作るプロセスで真似するっていうのはどうなんですか?

それはアリですね。でも、私の考えだけど、真似するものが好きなモノじゃないとダメ。本当に好きだったら、その人のことを越えられないって、ある時に分かるんですよ。そして、次は自分のスタイルを探し出すと思うんですよ。

誰かの真似がゴールではないですもんね。2次創作をしてる人には分かると思いますよ。一般の人には分かるのかな?

プロセスやテクニックとして、こういう風に描くんだなっていうのは、誰かのを見本にしてやればいいけど、そこで満足しちゃう人は、本気で好きな人じゃないと私は思うのね。うまい人と同じに描く事が目的じゃないでしょ。そのうまい人とどう違いを出していくかが大切だと思うから。

完全に共感なんですけど、日本の教育って逆な気がするんですよ。僕の感覚なんですけど、完全にコピーできたらよく出来たって言われて、同じじゃないと残念みたいなね。模写って、テクニックなので、やれば誰でもできるようになると思うんですよ。それを否定してるんじゃないですけど、クリエイティブだとは僕は思わないんです。でも、一方でそっちのほうが商品価値あるようにも思うんです。

そういうこともありますよね。でも、自分が選べばいいし、両方やってもいいと思う。

なるほど。

「自分はこんな絵が描きたいのに、お客さんは喜んでくれません」っていうのは、もったいない気がするんです。 だから、席描きの絵は、クライアントあってのイラストとして考えて、作品は公募や展覧会に出していくのが今はいいと思っています。ただ、時代の流れの中で、これからその2つが1つになっていく可能性はありますね。

昔からそういう考え方なんですか?

そうですね。でも、昔はいろいろ悩んでいたけど、今はおばさんになって、自分の考えを自信をもって話せるようになったのかもしれないですね。

今後

オバマ

今後やることも、流れに身を任せる感じですよね。個展をやるとまたなにか生まれるかもしれないしね。

分からないですけどね。やるしかない。あ、たぶん横顔の本は出すと思う。今夢中だから(笑)。

そういうのは、周りから見たら羨ましいでしょうね。

そうなの?うらやましがられたことないですよ。

わははは。小河原さんがやってることって似顔絵師の範囲じゃないように感じたんですが、自分ではどう考えているんですか?

うーん。やっぱり顔にこだわっていきたいな。

なるほど。

今日は初めて会ったときに、この人いっぱい喋るなって思ったんですけど、私も喋るから終わらないわね(笑)。

そうですね。でも、楽しかったです。長い間本当にありがとうございました。

こちらこそありがとうございました。

書籍

小河原さんの名前で検索するとたくさんの書籍が出てきます。似顔絵を描いてみたい人は手にとってみてもいいかも。

描いてもらった似顔絵

また長いインタビューになってしまいました…。ここまで読んでくれた方々ありがとうございました。インタビュー前には、似顔絵教室の見学をさせて頂きましたが、生徒さんはすごい楽しそうで、定員いっぱいでキャンセル待ちだそうです。スゴイですね。 生徒さん全員に正面画の似顔絵を描いてもらったんですが、次の週には横顔が送られてきたので掲載させて頂きます(笑)。

小河原智子さんとその教室の生徒に描いてもらった似顔絵
小河原智子さんとその教室の生徒に描いてもらった似顔絵

どうやら、似顔絵教室では僕がモデルになっているようです(笑)。 右上が小河原さんのチェーンです。似顔絵を描いたことない人に、この偶然性のオモシロさは、果たして伝わるのだろうか?

あとがき

インタビューはとても楽しかったです。小河原さんは、すごく繊細で、すごくコダワリがある人。そんな印象を持ちました。これからどう絵が変わっていくのかが楽しみです。今回は似顔絵を描いてない人には、ただの長い文章になってしまったかもしれないけど、僕にとってはいろいろな気づきがあるインタビューになりました。僕ももっといろんな経験を積んで教えることも仕事にしようと思います!

(2013年4月13日 石神井公園の星の子プロダクションで)

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